はじめてよむ作家さん。
以下、内容に触れます。
なんというか、透明感のある文章。
説明がなさすぎる本ってしっくりこなかったりするのですが、
この本はちょうどいいくらいの説明の無さというか。
あんまり事細かに書かれすぎている、こちらの思考の余地のない本ではなく
程よく空白のある本でした。
『立派な人間になれなくたって、周りの人に迷惑をかけたって、
こうした化学変化が絶えず起きている世界で生きていけるのは嬉しいことです(抜粋)』
『『夏』や『虫刺され』や『眠り』のある、素晴らしい世界に住んでいるのですね。(抜粋)』
身体がかゆくなるとか、温かいとか、水滴の形とか、
そういう当たり前の身の回りを素晴らしいと書かれている文章ちらほら。
「人にやさしく」とか「笑顔」とかそういういわゆるヨイコトですらなく、
化学変化を愛す文章、懐の広さに、自分ももっと些細なことを愛して
日々を過ごしたいと思いました。
「『上手く喋れないけど、わかって欲しいの』としか考えていない人の言葉に、
耳を傾けたいと思う人はいません(抜粋)」
ぐぬぬ。ごもっともですね。でもこれに対して一気に怒りのままに
反論をしようとするも思いとどまる主人公。
「自分の文章を読み返すと、胸がザワザワする。つまりは、違うんだ。
この文章は、わたしがミカミさんに伝えたいこととは違うんだな。
思った通りに書いたつもりなのに、通じさせたいこととは違うんだ。(抜粋)」
この気づきはすごいなと思いました。
勢いで伝えたいことを伝えたけど、結局心がザワっとして終わることってありますよね。
なんの嘘もなく、本心を伝えたつもりなのに、通じさせたいこととは違う。
一回、一つ、間を入れることって、人と通じ合うためには大事なことなのかもしれません。
久しぶりにあって、手紙にとにかく何度も「会えてうれしかった」と書きまくる新田さん。
『この手相は幸せになるでしょう(抜粋)』
なんて、ざっくりと幸せ占いをする犬井くん。
どちらも単純で、なんと愛にあふれていることかと思いました。
素敵なシーン。