ゆるかん

赴くままにゆるゆるっとした感想を。観劇・読書など。残念ながら頭のいい考察などはできません。「私も読んだ!観た!」な方の感想聞きたいです。お気軽にぜひ。

劇場/又吉直樹 感想

又吉さんの雰囲気が好きなので気になってはいたのですが、純文学系で読みにくいんじゃないかとちょっと敬遠しておりました。

が、手に取る機会があったので。

 

以下、内容に触れます。

 面白い本だった。

もっと早く読めばよかったです。

全然読みにくくもなく、なんなら共感できるところも多く、スルスルっと読めました。

自分が昔ちょこっと演劇をやるのにハマっていたのでテーマ的に良かったのも

あるとは思うんですが、それは置いておいても表現が本当に上手。

あまりみんなが使わない表現の仕方、だけどすごく納得できる、というところを

ついてくれるので気持ち良く読み進められました。

 

子どもの頃の演劇は全国巡業のを学校などで観るくらい、というはなし。

社会的テーマや教訓が強すぎて、と。

これ、本当にそうです。

もちろんそういう教訓を伝えるために子どもたちに向けてやる演劇なので

それが演劇という手段として大正解だとは思うのですが、

「演劇に触れる」という目的としては失敗だと思うんですよね。

子どもながらに演劇は暗くて難しいものという印象を与えてしまう。

もっとフランクで愉快なものを子どもの頃に観る機会があれば

演劇ってもっとメジャーな文化になるんじゃないかなあと思います。

勿体ない。

 

「僕は前衛を履き違えているらしく、現代でもっとも避けるべき手法を得意気に実践してしまっていて(抜粋)」

ここ、胸が痛い。

頑張っていても、夢中で全力を尽くして作っているものが世の目線からは

痛々しい方向になっちゃうこと、ありますよね。

 

青山さんとのバトル、途中まで普通の喧嘩なのに

「キサマニトウ」っていうカタカナのメール来ちゃう所笑いました。

青山さんなかなかだな。

そしてそれに対する

「演出過剰」ってう返事がごもっともなんだけど突き刺しすぎ。

それに「マジ死ね」って返してくる青山さんの人間臭さ。

中学生で有りそうなやり取り。

 

沙希ちゃんの前で自分の普通さを主張しようとして言葉がまとまらず

幼児みたいになってしまう主人公。

普通に「自分」を生きてそれを見てもらって、判断してもらうのが

あるべき形なんでしょうが、

好きな相手には特にそれをよく見せようと頑張って結局恥ずかしいことになる。

 

沙希ちゃんに演出するときの

「客席に沙希ちゃんのことを嫌いな人間が一人いると思ってやって欲しい(抜粋)」

これ、この演出!

すごい的確だなと思いました。

演出って微妙な細かいニュアンスを伝えるのが難しいと思うんですけど

これはとてもその機微が伝わる!

 

沙希ちゃんが自分のまとまりのない安い狭い部屋を誇りに思っていると

気づいたときの動揺。

これはお互い苦しい。

「年相応の人間としての夢のある暮らしに対する期待があった(抜粋)」

そんな沙希ちゃんをみてしまって。

年代的に、まあこれくらいだろう、という暮らしができない暮らし。

現状をまるっと受け入れられるのが一番楽ちんではあるのですが、

カラリとしてみえる人が「相応」を夢とする暮らしぶり。

 

「劇的なものを創作から排除したがる人のほとんどは、作品の都合で平穏な日常を

登場人物に与えていることに気づいていない。(抜粋)」

目から鱗でした。

確かにな、劇的にしすぎないって思いすぎちゃうけど、劇的なことだって

世の中にはあふれているのに、

別にそこを切り取ることは悪いことではない。

 

おじさんが述べる、六時に起きて・・・からのどうでもいい努力の話を

それくらいは努力と思わずにやっている、と切り捨てるシーン。

その後のおじさんの「驚きを隠して平静を保とうとする顔(抜粋)」というのが

わかりすぎてつらい。

 

 

呑気なやつらの明るい日常、でも後半で苦悩がみえて泣かせにかかる、という作品が

批判されています、が。

やー、これやっちゃうんですよね。

若いころこういうの書いてました。

笑って泣けてがやっぱり一番感情を動かすのに手っ取り早いって思っちゃうんですよね。

 

手をつないでって言ったことを明日忘れてくれるのだったら手をつなぎたい。

という言葉、とてもかわいい。

それにたいして手をつなぐのが恥ずかしいと思っているのはあなただけだという彼女。

素敵な彼女。

 

味噌汁買ってきて、に対して、味噌汁なら作れる。それに、たいして、しんどくない?

「どっちみちしんどいから大丈夫だよ(抜粋)」

この返事。

これ沙希ちゃんけっこう限界きてるな、という感じがひりひりと。

どっちみちしんどいとか言わせないでよ。

 

本当に沙希ちゃんがけなげ。

お前のせいだって唐突に言われても、その理由がわからないから

考えるからちょっと待ってねって。

言い返してもいい所なのに、自分の非を考える。

 

青山さんからの説教は結構、正論。意外と。

カタカナ文送ってきてた人とは思えない。

一回好きになっちゃったら狂ってる馬鹿でも何とかしたいって

思っちゃうんだよっていう。

優しい女の子がクズ男にずるずるしちゃうのあるあるですもんね。

 

犬の鳴き声に意味はないけど、演劇上使われるのなら何らかの意味が発生する。

たしかに、演劇にしろ小説にしろ、経由すると意味を生み出せる。

たしかにたしかに。

創作物ってそこがすごい。

 

沙希ちゃんのことが好きなのに、その優しさや明るさで

自分のしょうもなさやみじめさが浮き上がってきてきつく当たってしまう。

周りの人が沙希ちゃんを心配しているように、はたから見ると

主人公はクソ男クソ彼氏なのだけど、主人公のつらさもわからなくはない。

ただ沙希ちゃんを悲しませていい理由にはならないかな。

ふさぎこんでいく沙希ちゃんが悲しかった。

ふたりとも、演劇しててもしてなくても、

どこにいても、

いっしょでもべつべつでも、しあわせになってほしいです。

 

これは火花も読んでみねばと思います。