ゆるかん

赴くままにゆるゆるっとした感想を。観劇・読書など。残念ながら頭のいい考察などはできません。「私も読んだ!観た!」な方の感想聞きたいです。お気軽にぜひ。

人間/又吉直樹 感想

又吉さんの三作目。

おっと分厚いなーと思いつつ…

 

以下、内容に触れます。

まず、よくぞこの熱量この重量のお話かけたな…という印象。

とにかく登場人物の思考がかなり深いところまで行っているので、

これを書くのにどれだけいろんなことを考え続けたのだろうという感じ。

今まで読んだ二作よりかなり哲学によっている印象。

 

「顔を出した仲野が笑っていなかったので。自分も笑っていなければよかったと

一瞬後悔したが、すぐに自分も全く笑っていなかったことに気づいた(抜粋)」

これ、変な話だけどちょっとわかる。

あ、今別に自分笑ってなかったな、って思う瞬間。

 

「才気を感じさせる人物の謙遜には、周囲の緊張をやわらげる効果もあるだろうけど、

自慢と意地の悪さと馬鹿を撒き散らした人物の謙遜など無駄でしかない(抜粋)」

バッサリ。

でも、すごく納得。

謙遜がいい時と悪い時あると思うけど、その何とも説明しづらいところを

ズバッと言語化してもらった感じがしました。

 

うまくいっていないときに書いた、ノートの隅の極端に影の濃い描写に

「仮病」っていう言葉を添えたところ。

些細な部分だけどこういうところが上手いなと思ってふふっとしてしまいます。

 

「自分の作品をサブカルチャーと呼ばれたい人なんていないでしょ?(中略)

本人は好きなことやってるだけやのに、誰かに勝手にくくられるんやろ?」

それなんですよね。

私は創作側ではないのでちょっと話ずれますけど、

自分が一般的にサブカルチャーと言われるものが好きなのですが

サブカル好き」って言われると

「いや私にとってはこっちがメインカルチャーや!!!」と思います。

 

ポーズというコンビの影島道生さん。

芸人で小説を書く影島さん。

ポーズって。風貌も又吉さんでびっくり。

こういうたくさんの思考が書かれている本だからこそ出てきたのかなと思いました。

芸人で本を書いていることへしょうもないコラムを書かれたことへの

返答が、思っていたより長文で書かれていて笑ってしまいましたが、

これが又吉さんを想像させるキャラクターでない、もっと状況が違う人が

言っていた場合

「これは本当は作者の又吉の怒りを反映しているのでは…」みたいな

考察が出てきそうなものですけど。

そこであえて自分を投影したようなキャラクターを出したことで

もうそういうの省いて文の熱量で勝負しようとしているのかなと。

 

主人公に影島さんが「地獄やな」といったことに対して

「いや、そんなんよくあるとか、気にすんなとか、好きなように書いたらええねんとか

言われることが多かったから(抜粋)」

うんうん。ついそういう励ましをすることがあるし、それで気持ちが楽になる

場合ももちろんあるんですけど

やっぱり自分の地獄を軽視せずに「地獄」ととらえてくれる人がいるのは

結構救われることだなと思います。

影島さんとバーであって二人で語り合うシーンがとても好きでした。

2人がずっとこうしてあっていられる世界だったらよかったのにな。

 

後半のお父さんの話は、初めはなんだろう…と思ったけれど、

読んでいくと、前半の思考の渦みたいなパートと相まって、

笑いとかだけでない人間の巧さ、稚拙さ、そしておもしろさみたいなものが

浮かび上がってきているなと思いました。

 

それにしても、感想の書きにくい本…。

これを読むと、しょうもない感想を書きにくいし、

「いやしょうもないもわかってて書くけど」というスタンスも取りにくいというか。

それだけグッと考えさせられるお話でした。