ゆるかん

赴くままにゆるゆるっとした感想を。観劇・読書など。残念ながら頭のいい考察などはできません。「私も読んだ!観た!」な方の感想聞きたいです。お気軽にぜひ。

森があふれる/彩瀬まる 感想

久しぶりの彩瀬まるさん。

装丁のきれいさにひかれて。

 

以下、内容に触れます。

妻がはつがする様子がとにかくおぞましくて

気持ちが悪くなるほどの描写力でした。

ちょっとぞくぞくしながら、一気読み。

 

性差についての本だったのですね。

前半の不穏さ、不思議さがあって没入できましたが、

最後はガチンコ語り合いというか

今の世の中の問題をストレートに登場人物たちが

語りすぎてちょっと冷静になってしまいました。

 

男は女を呼び捨てにしやすいのに逆はそうでもないという話。

わたしはわりと平気で呼び捨てにしたり、場合によってはツッコミで

お前なあ!くらい言ってしまうタイプではありますが

それでも性差で悔しい思いをすることはあります。

もちろんどちらの性別もお互い様な部分は大きいなとは思いますが。

作中にもあるように、ひとかけらの悪意もなく偏見を持たれていることも

また、きっと持ってしまうこともある。

 

『弱さを非難されないどころか、後ろめたくすら思わないでいられるのは

女の世界の話だよ』(抜粋)

確かになあと。それぞれ個人差や例外はあれど、どこかこういう、

自分が作ったわけではないにして弱さの逃げ道が女だからあるときは

確実に存在する。

あ、私が男だったら今もっと厳しく言われていただろうなと

思うことは、そしてそれに甘えてしまっていることはある。

この言葉に対して、男社会での競争に勝ち抜いて何があるのかという問い。

それへの返答が

『ないよ。勝ち抜いたって、良いことなんてなにもない。

ただの呪いだ。くだらないし、最後にはなにも残らない』(抜粋)

この言葉はすごい。

冷静にこれがわかっていてそして競争社会に身を置くっていうのは

呪いを認識しながら生きるのいうのは…。

呪いの中に埋もれておかしくなってしまう方が確実に楽だと思う。

ただ、この回答に対して「話ができる」相手だと認識する

この二人の関係性はなかなかいいなと思いました。

 

それにしても、女に対しての

『口を開けばいつも正しさしかないことを言って、人生だの生活だの愛情だの義務だの、人を簡単に殴り殺せそうな重苦しい概念を当然のように押しつけてくる。』(抜粋)

『女が放つ「どうして」からは、お前自身を解剖し、醜い部分を切除しろ、という野蛮な気配を感じることがある。』(抜粋)

このあたりの表現は言いえて妙だなと笑ってしまいました。

正しさは人を殺すなと思います。

ただ、自分が不倫しといて「ちょっとした浮気」って

「ちょっとした」とか言っちゃう側も、

そういうとこやぞ!と思います。

 

ベクデルテストって映画業界の言葉、初めて知りました。

最近は確かに王子を待つプリンセス、みたいな話は減ってきているような。

 

森は、初めは絶望なのかなって思っていたけれど、

愛情であり苦悩であり思考であり、何かって言い表せない、

だからこそ、混ざり合って茂って、

森なのかなと自分なりに思いました。