ゆるかん

赴くままにゆるゆるっとした感想を。観劇・読書など。残念ながら頭のいい考察などはできません。「私も読んだ!観た!」な方の感想聞きたいです。お気軽にぜひ。

あのひとは蜘蛛を潰せない/綾瀬まる

綾瀬まるさん、この前「骨を彩る」がヒットだったので、

今度は長編も読んでみたいなと思って買ってみました。

相変わらず装丁の素敵な文庫本。

 

以下、内容に触れます。

 文の書き方としては、相変わらずとても読みやすい、のだけれど。

気持ちがぐっとなってしまって、ひと呼吸入れながら読みました。

面白い本って、大抵最後が感情移入しまくって盛り上がって心が動いて終わり

なのだけれど、この本は序盤から中盤の心の揺さぶられ具合がすごい。

しかも、まじめな人間の奥の方の弱さをゆすってくるので、

なかなかヘビーな読み応えでした。でも、きらいじゃない。

 

お母さんと主人公の関係性が、見ててリアルすぎてしんどい。

「かわいそう」と「好き」と「優しくしたい」と「優越感を感じる」と「怖い」、

全部が一緒くたになることって結構あることだなあと思いました。

自分がどの感情でその人に接しているのか、その人にやさしくするのは誰のためか。

 

三葉くん、好きです。屈託ない明るい子は

(後に三葉君も色々な経験を経ていることが明らかにはなりますが)

明るいからこそ残酷で、切り捨て上手。

そういうところがまじめにまじめに生きてきた人間から見ると

恐怖、だけどどうしても抗えない憧れもありますね。

そういう子が、主人公といることで自分の足場が不安定になっていく姿が

印象的でした。それは彼にとっていいのか悪いのかは、結局わからないけど。

自分の足場のことなんか気にせず生きていけるほうが幸せなだとは思うけど、

辛くてもぬかるんだ沼に突入したほうが他の沼の中の人のことをきちんと

温めてあげられるような気もするし。

 

三葉くんが離れていった時、ハッピーエンド好きとしては

「絶対戻ってきてほしい!」と思ったものの、

思ったよりもさらっと

「梨枝さんが好きです。一緒にいたい」(抜粋)

と言ったのには拍子抜けしました。

もっと一緒にいることに葛藤を持ちながら帰ってくるのかなーと思ったので。

 

それから、主人公の行動が失敗に終わったときに、職場の人が、残念でしたね、と

声をかけてくれたことに対して

『私の中の出来事の位置づけを「失敗」から「残念」に変えてくれた』(抜粋)

というのが印象的でした。素敵な表現。

失敗、より残念のほうがすくわれるとこありますね。

わたしも誰かの辛い失敗恥ずかしい失敗を残念に変えてあげられるような人になりたい。

 

最後の方の三葉君と主人公のいちゃいちゃした会話で、三葉君が

「きりがなくてきらい」(抜粋)

というの、全部ひらがななところがとてもよかった。

なんかほんとに嫌いな感じじゃなくて、突き放す感じじゃなくてっていうのがよくわかる。

 

主人公の内側のちょっと抽象的な世界の描写が後半は割とありましたが、

それよりも、他の人とのかかわりのリアルな部分のほうが

より感情が伝わりやすいというか、あんまりふわふわしないところのほうが好きかな。

 

不思議な読後感でした。

綾瀬まるさん、また何か読もう。